彼はテニスは下手だったがラケットは二万くらいの高いのを買っていた。
彼は部員がぬるい行動をとると「半端はひとっちゃすか~ん」と怒り狂った様子で言いながらその、部員の誰のものよりも高級な自分のミズノのラケットを地面に叩き付けラケットをよくダメにした。ぼくたちは彼の割れたラケットをみて恐れおののきとにかく怒られないようにと声をだして練習した。
「わいどはいたー」(でかい声で)
「ワイドハイター」(大声で)
大きい声で「ファイトファイトー」っと叫んでみよう。
「わいろわいろ~」とか「ワイドハイター」と聞こえることがある。
コーチ・えのもとは部員をケツラケするときも(ケツバットより縦にたたかれるのでケツラケはいたい、100ニュートンくらいかな)、自分のそのコウカなラケットで惜しげもなくたたき切ってくれた。
ぼくたちはこれをくらいながら、愛はお金を超えるものだと体感させていただいた。
たたけばたたくほどコーチの財布は厳しくなるのだ。好きなセブンスターの本数にだって影響が出るだろうに・・・。コーチえのもとは遠征費なんかとらない。遠征試合の移動につかうレンタルマイクロバスはかれの財布の中のマイクロマニーから出された。運転手はコーチ。
ぼくたちは恐怖と愛を同時に彼に学んだ。入部時には不良ばかりだったのに定期テストで学年のトップ層を独占するようにいつしかなっていた。
コーチ・えのもと(9)に続く。