むかしまだぼくが小学校に通って小学5年生をしていたある日のことだった。
母がぼくを街の喫茶店につれていってくれた。
「まち」というのは鹿児島ではそのまま天文館のことを差し、その街一番の繁華街のど真ん中にあるガラス張りの2階にその茶店はあった。
外から丸見えかぁ。へんな店だなー。
ちんちん電車(路面電車)が走るスクランブル交差点の真正面にあるその店の立地のよさに気がついたのは、渋谷駅の忠犬ハチ公前のビルディングにスタバの建ったのを見たさらに9年くらい後のことになる。そして丸見えには驚かなくなっている。
そのときは驚いた。ここは中に入っても中から見えるし、逆に外の人通りを見ながらコーヒーを飲んだりするのか、と。
母の営むお店は夜になるとカラオケの音がしていささか騒がしかったし昼は昼で何もつけてないのにみーーーーと音響機かなにかの高周波な音が耳に触った。そこからほど近いその茶店で母はいつものようにホットコーヒーを注文しぼくもそのときは同じものを注文した。
母はミルクを入れてまぜなかった。
スプーンあるよ。
ぼくがいうと、「あら、ミルクはまぜないのよ。コーヒーはこうして飲むのよ。」
へー。真似してみたらたしかに飲むたびに味が変わってうまいね。
以来、コーヒーにミルクを入れるときに混ぜたことはあまりない。
さっきぼーと考えごとをしていて間違って混ぜてしまってくやしかったので、ここにメモしておこう。
今後間違って混ぜたりしないように。
それは授業参観の後だった。母はコーヒーを飲み終わるとぼくに言った。
「あんたは馬鹿だね。キョロキョロして先生の話を聞いてない。」
いやお母さんが見てるか探してただけよ。普段は聞いてるから。
「あんたは馬鹿だね。キョロキョロして先生の話を聞いてない。もったいないことをしてる。どんなときでも先生のいうことをよく聞きなさい。どんなときでもよくだよ。わかったの?」
わかってるよ。
ところで何で喫茶店に連れてこられたのだろう。
それがぼくの喫茶店デビューだった。