受験生とヴォクが闘えるときが年に一回だけ存在する。
ヴォクが受けた年の東大入試の問題を子どもが解くときだ。
他の30年分の入試問題と同じくその年の問題も毎年のように解いているが開くたびにビビビーと記憶が蘇る。
試験場にはさみを忘れ教科の選択のところに切り込みが入れられず前の席のとも君(親友)にはさみを借りたあの日にタイムワープする。
いつものように問題をぼーと眺め解き順をきめたあとの思考の流れが鮮明に蘇る。忘れられない入試問題とはこのことだ。
試験終了後庭で駿台がいつもくばっている手書きの解答速報を見る。
解答のグラフがまったくヴォクの書いたものと同じでそれどころか答えの数字までピタリと一致している。あの帰り道。
その日ヴォクは神田の安ホテルにまっすぐ戻らずにどこかの通りがかりの公園をぐるぐると歩き周りながら試験の問題のことを思い出していた。
そのときにふっと帰り、気がつくと今が採点している未来の今だったことにあわてる。
そうだった。
ヴォクが受けたモノホンなんだとはわざわざ子どもに言うことはない。
しかし添削しながらそれを解いた自分が重なる。
機械人間採点マンに戻って、採点する。
「点数がいい。ヴォクが負けたかー、ぐやぢいー」と思いながらも喜んでいる自分がいる。