高校の数学教師。めっさでかい声でとなりのクラスから聞こえてきた。
なんでこうなるのか。なんでか。なんでかわかるか。
国語や社会の授業そっちのけで漏れ聞こえて来る理由を聞いて後からとなりのクラスの子にノートを借りた。
たった一度だけ彼が代講でヴォクの数学のクラスの授業をした。
なんでこうかわかるか。グラフをかいたか。なんでかな。なんでがわからないと数学じゃない。なんでかと言えば…。
生授業。
肝心の数学の教科書の問題は全然解いてくれない(笑)さっきから黒板にはグラフが少し増えてるだけだ。
ただ公式を見せたら勝手に問いをなげかけて、理由をみなに問い、問いまくり、ひっぱりまくり~の、考えさせまくり~の、理由をアツク語り~の、たまにグラフをかいたら、あとはなにより理由を知る価値について裏声で叫んでいた。とつぎ~の(笑)
たのしかった。
ヴォクは彼に三年間ならいたくて仕方がなかったが、一度も彼には担任としては学べず、代わりに数学の解法を暗記してから問題演習ばかりさせる担当が続いた。暗記数学。点にはなるがいかんせんオモローくない。
かたや、ヴォクのテニスの相方はナンデナンデマンに数学を習い、彼が担任でもあったので、ヴォクは彼にノートを借りていた。
理由のノートはおもしろくて仕方がなかった。東大入試は国語や英語はできて当たり前。数学が鍵を握っていた。彼のナンデナンデノートはヴォクにとってはなによりのモチベーションだった。
生で受けられないからかえって必死になってノートから想像して考えてみた。チラリズム。
隠された秘密を知るみたいな喜びが倍増した。でもたまになんのことかわからない。ついてないことに相方は数学は苦手だった。
「テニス部のヒカリです。たまたま相方に質問されたのですが分かりませんでした(一部捏造)。ここのところの理由をすこし教えてください!」
彼は担当してないヴォクにも職員室で大声でしつこくひっぱりながら教えてくれた。
なんでか?なんでこうなるのか?
驚くべきは彼は数学が学生時代に大の苦手だったらしい。でも後から数学を(大学の文学部時代に)独学でやりなおし、楽しさに目覚めいつの間にか数学教師になったらしい。
解けない問題があると彼は人目もはばからず他の数学教師(教務主任)に質問をしていた。普通は隠れてきくだろうに。国立二次なんかの数学の問題は相変わらずさほど解けないらしかった。彼は難問を解けるかなんてところに価値をおいていなかったのかもしれない。彼は数学の楽しさを知っていて、それを子供たちに伝えるのが天職みたいな人だった。
問題はあまり解かない。でも彼の授業は間違いなく一番ステキだった。なんでか考える喜びに満ちあふれていたんだ。