上尾市にある学習塾|光塾

英語教師マシュルーム(1)

あれは中学三年の頃だった。髪がぼうぼうのマシュルームカット(山崎邦正風)でビートルズみたいな先生で、ビートルズ英語をこよなく愛する中学の英語の教師に習っていた。ヴォクは小3の頃からビートルズらぶ(みーどぅ~)だったのでうれしかった。

授業はわかりづらいこともなく(当時からやや批判精神旺盛なヴォク)、まぁわかりやすかった。例文がビートルズだったのでまぁよかった。イマジン!(想像してごらん)というのが彼の口癖だった。イマジン!と言ったあと5秒くらいしたら日本語訳を言う、そんな授業だった。

彼は「英語教科書の英文を毎日写しとれ!」というミッション・ポシブルを3回目の授業でぼくらに課した。書き取り?英語を見て英語を書けばいいんだよね?教科書を左において右のノートに書きなぐるんだよね?(たまたまヴォクは右利きだった)

可能は可能だ。

ぼくは言われた通りに書き写してノートを出した。とりあえずものはためしとばかりに多めにアグレシブに書いてみた。時折先生をビビらせたくて多めに書いてみたりもした。日曜日をはさんで1日に30ページノートを書いてみたりなんかして。

ビートルズ英語の歌詞かなにかのアンニュイな(アンニュイの意味がわがんねげど)言葉がついて、例えば「ざ・ろんぐ・あんど・わいんでぃんぐ・ろう~ど!(長くてまがりくねった道)ウェルダン!(よくやったな!)」みたいな直筆のサインつきでノートは戻るがノート消費量もハンパない。僕が書いた英文に対して先生のサインは2行くらいだしなんだかフェアじゃなくね?結構すぐにノートがなくなり財布が寒かった。それになにより、このミッションの意味が正直分からなかった。彼は授業が終わるごとにノートを集め、授業がはじまるごとにノートを集めた。毎回。直筆のサインつきで返してくれる。相当しつこかった。そういう日々が3か月か4か月くらい続いたろうか。

ぼくは音読派だったのでこの写経にいつしか疑問を持つようになり、ついにたまらずあの日あの時あの場所で(東京ラブストーリーかっ!)、放課後の職員室にマシュルーム先生を訪ねてつくり笑顔で質問した。課題は一応多めに出した上で。

「せんせ~ぃ(ニッコリ)、あの~、ちょっと思ったのですが、教科書の書き取りにはどのような意味があるのですかぁ。」(あくまでさりげなくふと気になったので聞きました的なニュアンスの、わっぜか鹿児島弁で)

「意味?意味なんかないっ!書いてみないと意味があったかどうかなんか分からないでしょう?書いて書いて書いてみたらいいから、このまま続けなさい」と。

・・・終わり・・・

たまに、そのときのことを振り返ってみることがある。

勉強に意味なんか求めなくてもよかったのかしら、と。