えのもと監督は大事な大会前になると遠征の練習試合に連れて行ってくれた。
ぼくたちは連続優勝校だったので相手チームがくることもあったが準優勝チームなんかのところにぼくたちがいくこともあったようだ(相手チームがどう選ばれていたのかをぼくは聞かされていなかった)。
えのもと監督はバスでぼくたちを遠征先につれていく。
集合が朝6時。
試合開始は朝9時。
バスには運転手も乗り込む。
選手は強いものからバスに乗り込む(強者先乗りの法則)。
運転手はバスの運転がうまくマイクパフォーマンスが下手だった。
運転手は今日の試合の意味、各人個別の課題、負けた場合の罰、勝った場合の褒美についてマイクで話してくれた。
マイクバスだ。
マイクロマイクバスの運転手はえのもと監督自身だった。
えのもと監督の家庭は崩壊しているのだろうというのをぼくたちはいつもこっそり話していた(練習でいじめられていたので噂で返していたのだ)。
そんな噂があるのも、えのもと監督は練習に必ず顔を出すどころか365日、日曜日も練習をするので家庭サービスがないのだ。
マイクロマイクバスのマイクから発せられる言葉をたまに聞きながら桜島の裏側まで二時間かけていく。
そして試合試合試合。
そんな、えのもと監督であるがテニスの経験はなくラケットの握り方からして彼の独学だった。
テニスの監督をやる前には野球の監督も独学でやり優勝させていた。
「テニスはアシニス(手ニスでない)だ」とか、「テニスは数学だ」とか様々の独自理論をぼくたちは必死に学んだ。彼にすると体の使い方はどうやら全スポーツ共通ということらしかった。
そんな数学と独自性を愛する監督にあこがれてぼくは塾をやっている。
えのもとみのるといふひと(4)へ続く。