コーチえのもとはダブリュー(1年生、2年生とも県大会で団体優勝すること)を達成すると、帰りのマイクロバス(加治木のレンタカー屋で借りてた)を道の途中で突然とめて、ぼくたちを降ろした。
なんだろう。
そこは人気のないビーチだった。
砂浜があった。茜色の海には波はほとんどない。鹿児島にはそういうプライベートなビーチがたくさんある。
そこでぼくらはテニスシャツの上着を脱いで、泳いだり浮かんだり笑ったり泣いたり水をかけあったりした。コーチえのもとは少し高いところからいつものようにタバコをもくもくとさせてみんなの方を見ていた。
ヴォクは風呂か温泉にでも浸かるような感じで砂浜近くの浅瀬でまったりと静かに浮かんでた。太陽はほとんど沈み顔も見えないくらいになっていたが海水はまだ少しだけあたたかい。遊泳時間はものの10分か15分くらいだったろうか。海水を滴らせたままヴォクたちはバスに戻った。
「いない人は手を上げろ。
隣はおるか?
よし、帰っど。」
それがヴォクにとっての優勝の塩の記憶。
マイクロバスにはマイクがついてた。
ヴォクは頭の中で、マイクがついててコーチえのもとがたまに話すからマイコーバスというのだなーなどと考えながらまたうとうととしていた。
ヨネックスのレックスキングソフト17と中学生のぼくたちを乗せた、コーチえのもとの運転するバスは小さくて狭くてよく揺れてすぐに眠くなった。